Bring me back to 昭和!

日曜日、タケくんが俺のとっているクラスのために計算機を持ってきてくれたのが

12時ごろだった。俺らはたまにギターとベースを一緒に弾いたりする仲で

あったのだけれど、タケくんはいかんせんビギナーの域を脱していなくて

(人のことは言えませんが)レパートリーが少ないとう不満がお互いあって、

俺は俺であんまり歌がうまくないというジレンマがあった。

たまたま俺のギターに合わせて、タケくんの歌ったのを録音して聞いてみたら、

なかなかいい声してるね、ということに気づいた。

それで、何曲かNirvanaをやったけど、どうせなら日本の曲をやるか、

ということになりスピッツの曲を何曲か選んだ。

ロビンソン、チェリー、など何年か前にテレビで聞いた曲くらいしか知らないけ

スピッツは日本のバンドで最高のバンドだと思う。曲がすばらしいし、歌詞も

あの欲の無い感じは他に無いものではないだろうか。で、スピッツをやった。

タケくんはかなり高い声が出て、高音部ではスピッツそのものだった。

隠れた才能はそのへんに転がっているものだ。そしてそれに一生気づかないこと

もあるかも知れない。実際、彼は歌がうまいなどとは露ほどにも思って

いなかった。

さらに日本の歌といえば”スキヤキ”、坂本九の”上を向いて歩こう”を

やることにした。最近、九ちゃんバージョンを聞く機会があり、その歌い方に

かなり興味を持っていたところだった。”最近、最悪なことばっかりで

気分はブルーだけど、生きてりゃいいことあるよ”的な繊細かつ、

力強いものを感じる歌い方だ。

ティムの親父さんにせがまれて弾き語ったこともあった。

後日、それをクラスで勝手に披露されたとその場にいた人から聞き、

少し複雑な気分でもあったけれども、まぁよい。

さて、俺のそういう思い入れをタケくんに伝え、彼なりの解釈で”スキヤキ”

を歌ってもらったわけだけれど、これがかなりの出来栄えであった。

浪曲師風に節をつけて歌ったその声は、まるで戦前のレコード歌手のようで

この曲を九ちゃんがカバーしたかのようだ。とは、言い過ぎかもしれないけど

そのくらいよかった。結局、俺らは夜の11時までそんなことをしていた。

これで俺が18歳くらいなら「駅前行って歌うか」てなことになるところだ。

このアメリカで昭和の匂いを感じた一瞬だったような。